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久しぶりによく冷える。
体の芯にまで染み渡るような寒さ。吐く息も真っ白だ。
被っているフードの隙間からちらりと白い粉が舞い落ちていることに気づいた。上空を見れ
ば、次々と雪が降り始めてきた。
街に入ってしまえば、暖も取れるだろうが、あまりそんな気分ではない。
きっと自分を埋めてしまいたかったんだろう。
……雪は私を癒す。燃え上がる火をゆっくり、ゆっくりと覆い尽くしていく。
真っ白に。ゆっくりと。もう忘れてしまったあの無垢だった頃の私に戻してくれ、と、そう
考えてしまう自分がいる。
――目を閉じる。
……ゆっくりと目を開くと真っ暗で、一面の銀世界に立っている。
静かでなにもない。ゆっくりと自分が消えていくのがわかる。遠くを見つめれば……そこに
は……立っている。筋骨隆々の巨人が。
優しかった村人を、大切な家族を、
―――愛 す る 兄 を 殺 し た あ の 男 が ぁ っ ! !
いきなり私の体から噴出した黒い火は一瞬で周り雪を溶かし始める。
鈍くなっていた四肢に力が篭る。目の奥がチリチリと熱くなり、カッと目を見開く。
途端に現実へ引き戻される。先ほど目を閉じたときと同じ景色。まだ雪は降り始めたばかり
でまだ積もるほどではない。
口からゆっくりと息を吐き出す。真っ白な息がまるで蒸気のように口から立ち上る。
そして、またゆっくりと雪が私を包んでいく。
昔ならばこんなことはなかった。あの男を思い出すだけで、興奮し眠れない。剣を降らなけ
れば落ち着けなかった。
それが今では簡単に平静を取り戻せるようになってしまった。
それは喜ぶべきことか、悲しむべきことか。
たすけて。このまま憎悪の火に焼かれるのも、刻という雪が私の火を消してしまうことも怖
い。
いつからこんなに弱くなってしまったんだ。
ふと、目の前を見ると、あの人が…兄が立っている。そして、昔みたいな笑顔を浮かべて、
お前はこんなこと忘れて、幸せになれ。と囁く。
時間と共に忘れられると思ったのに、その声は時が経てば経つほどに鮮明に私の耳に届く。
彼が許してくれているのか、私の弱さが生む幻聴なのか。その答えはもう十年近く出ていな
い。
私の名前はミリナ・ムラマサ。
憎悪を糧に生きる、どこにでもいる当たり前の復讐鬼。
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